2014年6月アーカイブ

相続放棄とは、本来自分が相続する権利があるのにそれを放棄し、最初から相続人ではなかったことにする手続きです。
相続人の間で放棄する旨を宣言するだけでは足りず、家庭裁判所に相続放棄申述書を提出して、受理されなければなりません。
相続で労力なくして財産を受け取れるといえば、誰もが喜びそうなはずですが、どうしてこのような手続きがあるのでしょうか。
どんなときに利用されているかといえば、たとえば、故人が多額の借金を抱えて死亡した場合が考えられます。
相続が発生すると、相続人は被相続人の権利義務をすべて包括的に承継します。つまり、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も承継します。
そのため、プラスの財産が不足していれば、相続人のお金で借金を返済しなければなりません。この負担を避けるため、相続放棄をするケースがあるのです。
相続財産が結局プラスなのかマイナスなのかは、遺産を調査してみなければわかりません。不動産などは、不動産鑑定士による鑑定をしてもらったり、不動産仲介の会社で、近隣の不動産の売買価格を元に価格査定をしてもらえば、大体の価値がわかります。
問題は、存在するかどうかもはっきりしない預貯金です。預貯金の存在は、同居している親族でもなかなかすべてを把握していなかったりすることが多いものです。一人暮らしの方などの場合には、全く分からないという場合もあるでしょう。これを調べる場合には、弁護士会照会(弁護士法23条の2)という方法があります。弁護士に依頼して、所属する弁護士会を通じて金融機関に照会を行うのです。ただし、この方法は結構費用がかかります(7~8000円程度)。
このようにして遺産の内容を調べた結果、マイナス財産の方が多いのであれば、相続放棄をした方がよいでしょう。
また、たなぼた的な利益を得ることを潔しとしない方や、老親や生活に困っている兄弟姉妹や、亡くなった人の面倒を看てくれた人により多く相続させたいという思いから、自分の相続分を放棄する人もいます。
相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行う必要があります。郵送ですることも可能です。
注意点としましては、相続放棄は、自己のために相続が発生したことを知ってから、「3カ月内」にしなければいけません。例外的に、遺産調査に非常に時間がかかる場合等、3カ月内に相続放棄するか承認をするかの判断ができない場合には、家庭裁判所に申述期間延長申立をすることができます。

家庭裁判所に相続放棄の申述をするためには、管轄裁判所に、相続放棄の申述書と、必要な添付書類を提出してする必要があります。
必要な書類としては、まずは戸籍があげられます。被相続人の相続関係を明らかにするため必要な書類です。また、 被相続人の住民票の除票又は戸籍附票が必要です。これは、管轄の判断のために必要な書類です。必要な戸籍の範囲については、申立人と被相続人の関係がどのようなものであるのかによって異なります。被相続人の配偶者が申し立てる場合と、被相続人の兄弟が申し立てる場合とでは、必要な戸籍の範囲がかなり異なります(兄弟の場合の方がかなり戸籍が大量に必要となります)。
相続放棄に必要な書類の解説はこちら

これらの書類は、管轄裁判所で最初に相続放棄を申述する相続人について必要となる書類であり、もし同一の裁判所に、続いて相続放棄の申述をする相続人がいた場合には、同一の書類を省略することが可能です。

相続放棄の申立がなされると、家庭裁判所では、形式的な審査と実質的な審査の両方を行います。まずは添付書類から、申立ての管轄が間違いないかとか、申し立てた人が相続人に該当するのかなどを審査します。

相続放棄の申立をするのは、法定相続人にですから、法定相続人以外の相続人から相続放棄の申立があったとしても、受理することはできません。たとえば、被相続人に子供があった場合に、その子供が相続放棄の手続きをする予定があるからと言って、次順位の相続人となるべき相続人の親が、先順位の相続人である子供が相続放棄をする以前に相続放棄の申立をすれば、それは法定相続人以外の者からの相続放棄申立ということになりますので、受理されないということになります。

そして実質的な審査の内容としては、申述者に対して、照会書という書面を送付して、その回答を検討するということになります。また、書面審査では判断がつかないようなケースでは、申述者に対する審問が開かれることになります。これらの審査では、たとえば熟慮期間である3カ月の期間を超過している場合には、それについて相当の理由があるかどうかを、判断するということになります。実務的には、相当の理由がないと明らかに判断できる場合を除き、申述を受理する扱いとなっています。